2016年3月1日on reading'みずの呼吸「みずに 生きた記憶が映されたようなお茶。」 そう言って静かに目を閉じる。 その人はふと ある風景を見たようだった。 ふるえるままに覗き込んで 息をかけた杯に 涙がゆらゆらと舞う。 すべての計らいを捨てて 心のみで向きあう人だけが出会う ずっと健康的でとても美しい瞬間。...
2016年2月9日森の茶「西双版納の森へ行きましょう。」 とおい記憶をさそう声 目で見えていなくても 肌で触れていなくても こころに存在しているもの。 そう、 ほんの一瞬を同じに感じられる人がいる。 森のお茶を交わしながら ゆっくり沈んでいく様な 光と影の静かなささやきに...
2015年11月17日on drinking specimen飲む時間から茶葉の標本を採る。 数千年前より変わらない農法で、人の手によらず自分の力で生き、 それが自然生態系の一部として絶えず循環している。 多くを求めず豊かさを生み出す山岳民族の性に守られた場所にだけ、 生き続けることのできるお茶の樹がある。...
2015年10月17日茶を読む人どこからともなく吹き染める秋風と、 小屋を訪ねて下さった庭居と交わした本の言葉が体をとらえ心から離れなくなって、 お茶を想うその一章を繰り返し読んで過ごす朝。 陸羽の云う 日を慎ましく生きること、その先に何が見えるのでしょう。...
2015年9月11日古樹茶ただ一枚の葉に、かすかな風のひとむれとひと掬いほどの土の匂いがする。 しなやかで深く、切なくて温かい。 ただ一瞬のうちに、自分の存在が体の輪郭が消えていくのを黙って眺めていた。 急いで焦る心、迷いながら悩む心。 ただ一杯の茶湯に、生きた力が溶け出してゆっくりと体を潤していく...
2015年8月31日紅水烏龍茶夕暮れどきの雨の空。 寝転んだままじっとしていると、どこからか山の匂いのする風が吹いて、 立ち込める薄青に光がさすのをただ待っていた凍頂山の朝霞の中の風景を思い出している。 ほうっと吐く息が紅く色づいて、あたりに染みていくその生温かさは、...
2015年6月5日枯香睡蓮まだ浅い時間、 窓の向こうに絡みあう木々の線と線は黒い影に濡れている。 鞄のポケットから破れた薄い半紙に包んだままの睡蓮を取りだして、 紅一輪、生温かい湯に息をほどく。 喉に淡くまどろみ、体の中へするすると流れる、巡る花の湯。 二日前に届けてくださった睡蓮が、...
2015年5月5日春の野 松萝茶ちいさな杯に ただひと芽の浮かぶ いと おさなくて いと 柔らげに その偶然をみて かすかな味を感じる しげしげ と ほれぼれ と ほぅっと吐いた息が もの柔らかな夜に 消えていく このときだけの口福 ひととき 春の野を想はせる - ...